告白の真意・そして罪状(3最終話真犯人ネタバレ)





あの一瞬、オレのココロに‥‥本当は、何があった‥‥?
綾里 真宵を守ろうとする、純粋なキモチだったのか?
それとも‥‥6年前、オレのすべてを奪った、あのオンナに対する‥‥決してむくわれることのない復讐だったのか‥‥?
今となっては‥‥もう、わからねえのさ!



ゴドーさんの罪は一体どうなるのでしょうか。
霊媒が認められるとして、彼が殺したのは、真宵を殺そうとしていたちなみだったとしましょう。
とすれば、正当防衛が成り立って、殺人罪では問われないような気もします。

刑法第36条1項
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。


正当防衛が認められるためには

その一、急迫不正の侵害に対する行動である
そのニ、自己または他人の権利を防衛するための行動である
その三、やむを得ずにしたものである
その四、防衛の意思に基づくものである


この四つを満たしていないと駄目です。
それでは、ゴドーさんの行為はこれらを満たしているのでしょうか。


その一、急迫不正の侵害に対する行動である

「急迫不正の侵害」とは、客観的状況から見て法益侵害の危険が目の前に差し迫っていることをいう(by大谷先生)らしいです。つまり、今まさに危険な状況であり、警察とかに助けを求められない状況、ぐずぐずしてたらやられてしまう!ってな状況のことをいうわけです。
実際、奥の院で真宵は大ピンチだったわけですし、警察を呼ぶことはできない。また、放っておいたら真宵ちゃんはグッサリやられてしまったでしょう。
ただ、ひとつ問題となるところがあります。それは、これが「予期されていた」危険なのではないか、ということです。
ゴドーさんは、綾里キミ子の計画を知っていました。いざという時は、舞子がちなみを霊媒するということも知っていました。そして、誰かがちなみを霊媒したのなら…ちなみは真宵を殺しにくるだろうということも知っていたわけです。
しかし、この場合、舞子とゴドーの計画は、ここまで最悪になることを織り込み済だったとは思えません。本来は、春美ちゃんを留めて置いて、霊媒したちなみを真宵に会わせず止める。ということだったわけですし…。最悪の場合、殺してでも止める、という話はついていたかもしれませんが、あくまで『最悪の場合』。そうならなければならないにこしたことはない、と思っていたでしょう。
そして、「当然又はほとんど確実に侵害が予期されたとしても、そのことからただちに侵害の急迫性が失われるわけではない」と判例も言ってますし。
よって、この場合、認めてよいと思います。


そのニ、自己または他人の権利を防衛するための行動である

真宵ちゃんの命、という最も大事な権利を守るためです。また、「防衛するための行動」とは、侵害者(ちなみ)の法益侵害(真宵を殺そうとする行動)に対する反撃でなければならないのですが、この場合、これも満たしています。
よって、問題なし。


その三、やむを得ずにしたものである

反撃をしてもよいからといって、何をやってもいいわけではありません。必要な範囲で、できる限り相手の(ちなみの)法益侵害、危険の少ない手段を選ぶべき、なわけです。
だから、殺そうとしている相手から守るために殺してもOKとは、一概に言えません。
法益の侵害と保全法益がある程度均衡しており、その手段が出来る限り危険でないといけないのです。
平たく言えば、ゴドーさんのやったことと、ちなみがやろうとしていたこと(真宵の命を奪う)ことが同じくらいの意味を持つものでないといけない。そして、ちなみを止める手段は、できる限り平和的なものでないといけない、ということです。つまり、殴って止められる、もしくは相手から凶器を奪って止められる可能性が高いのなら、わざわざ殺して止めても、相当な手段とは認めないよ、ということです。
この場合、ちなみ(実際は舞子ですが)の命と真宵の命、この二つは同じくらいの意味を持ちます。
また、あの状況で、咄嗟に舞子(ちなみ)を刺したのは、仕方ないかもしれません。
ただ、体格差が問題になる可能性はありますね…ゴドーさんは男で体格もかなりいいですし、ちなみは女で、華奢な体つきをしています。殺さなくても、他に止める方法があったのでは…とか。
しかし、実際にゴドーさんはちなみに反撃を受けていますし、ちなみはナチュラル・ボーン・キラーズ、目的を達成するためには相手を殺すことも辞さない危険人物です。また、ゴドーさんの体は、実際にボロボロで、見た目ほどマトモに動く状態ではなかったのかもしれません。
よってこの場合、ちなみ(舞子)を殺して止めたのは、相当な手段と認めていいのでは、と思います。


と、見てみると認められそうですね。正当防衛。もちろん正当防衛が認められれば、ゴドーさんは無罪。
しかし、ここで問題になってくるのが、最初の台詞です。

あの一瞬、オレのココロに‥‥本当は、何があった‥‥?
綾里 真宵を守ろうとする、純粋なキモチだったのか?
それとも‥‥6年前、オレのすべてを奪った、あのオンナに対する‥‥決してむくわれることのない復讐だったのか‥‥?
今となっては‥‥もう、わからねえのさ!




その四、防衛の意思に基づくものである

正当防衛は、正当防衛でやってるぞ、という意識がないとだめなのです。
とはいえ、別に「正当防衛」と考えている必要がある、というわけではなく、つまりこの場合は『真宵を守るため』という意識でやっていればOKなわけです。
しかし。
「防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできない」
最高裁判所は昭和50年11月28日の判決にて、こう言っております。
つまり、『真宵を守るため』ではなく、それを口実に、機会に乗じて『ちなみに復讐する』ため、ちなみ(舞子)を殺したのなら…正当防衛は成立しないのです!
もちろん正当防衛が成立しなければ、ゴドーさんには殺人罪が成立します。

なるほどくんが言ったように…あの状況なら、正当防衛は成立していたでしょう。
しかし、ゴドーさんは、自分から、言ったのです。自分の心には復讐があったかもしれない、と。
彼は検事です。その前は弁護士でした。知らないはずがないのです。その一言が、自分にとって、どういうことか。自分の罪状をどう変えるか、知らないはずがないのです。
なのに、彼はわざわざこの言葉を言った。

彼は、罰されたかったのでしょう。
薄暗がりの中に浮かび上がった憎い女の影を見て我を忘れたあげく、復讐という麻薬に惑わされて、守るべき人を手にかけてしまった…自分の罪を。
ゴドーさん、悲しいヒトです。

そして私は思うのです。ゴドーさんはきっと、自分の罪を認め、自分の心に『ちなみへの復讐』があった、という『自白』をして、殺人の罪で起訴されることを選ぶのでは…と。



と、しんみりしたところで、もう一つの罪状の考察に行きましょう。
もし、綾里舞子がもしもの時は自分を殺してでも止めてくれ、と言っていたりしてそういう約束ができていたなら、あるいは同意殺人罪の方が成立するかもしれません。同意殺人罪とは、被殺者(殺された人)の承諾を得て殺す罪のことを言います。
まあ、しかし承諾があったとしてもその後舞子は霊媒状態(心神喪失状態?)に入ったわけで、その承諾が生きているか、という問題はあります。何故なら、殺人の承諾は実行行為時(殺そうとする時)になければならないからです。とはいえ、状況が完全にわからないのでなんとも言い難いっすね。まあ、状況次第では同意殺人罪が認められる可能性はある…くらいでしょうか。
もっとも、それを証明できる人がいるのか、それ以前にゴドーさんが同意殺人罪なんて持ち出すか、というところが問題ですが。弁護士次第だろうか…。
ちなみに、殺人罪が『死刑又は無期若しくは三年以上の懲役』であるのに対し、同意殺人罪ならば『六月以上七年以下の懲役又は禁錮』ですから、圧倒的に刑罰は軽いです。うまくいけば、半年で帰ってこれます。
いや、彼の場合初犯で情状酌量の余地も大いにあるでしょうから、執行猶予がついて、服役しなくて済むかもしれません。
また、本当に彼の体がボロボロで、定期的なメンテナンスが必要であり、懲役に耐えられないような体だったら…たとえ殺人罪で懲役くらっても、服役しなくて済む、という可能性もあります(事実)。




さて、結局、ゴドーさんの今後はどうなるのでしょうね。



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