狩魔親娘と御剣親子2(2終了・3シナリオネタバレ)



4 御剣怜侍、空白の失踪期間

1と2ではネタバレを避けるためか、どうにも越えられないムジュンの壁があります。
2で御剣自身が語った失踪の真相は「勝利を絶たれて自分を見つめなおした」ような感じでしたが、それは1をやった人間にとっては「ん?」と首を傾げたくなる理由です。冥とのオーバーラップ&なるほどくんの異常なまでのお怒りという点で、2のストーリー上では筋が通っていますが、1の彼と考えると…それってオカシイ。
1−2では、コナカから圧力をかけられていた…ということは彼自身真相はうすうすわかっていたでしょうし(少なくともなるほどくんが犯人だとは思ってなかったでしょう)、1−3ではむしろ自分から進んで「勝利」より「真相」を選んだ節さえある。
1で御剣が語った、彼の勝利への信念というのは「犯罪者を許せない」「誰が犯人かなど実際のところはわからない」であり、イトノコさんの言うように、それは「捜査への信頼」があってこそ、なのだとすると…それは実はその通り、というかまっとうな理由というか、何の問題もない考えではないでしょうか。黒い噂とか、証拠のでっちあげ、とかはまあ、いけませんが、考え方自体は問題はないように思えます。
そう考えると、1の御剣にとって「勝利を絶たれたこと」というのは失踪するほどにショックなことではないはず。むしろ、1の御剣が失踪するほどにショックを受けたとしたらそれは…やはりDL6号事件の真実ではないかと思います。
彼は狩魔豪に師事していた。そしてそのやり方を信じてやってきた。また、犯罪者を憎み、その犯罪者を野放しにした司法のやり方を憎み、それゆえに被疑者を有罪にしてきた、わけです。
しかし、灰根は真犯人ではなく、自分が師事した狩魔豪が真犯人だった。彼のやり方をすでに自分の人生に取り込んでしまっていた彼は愕然としたはずです。もしかしたら、狩魔豪を憎めなかったかもしれません…何故なら、彼の思考や彼の生き方、それを充分に理解しており、自分を構成する一部に既になってしまっていたならば、狩魔豪の行動を理解し、共感すらできてしまったかもしれないからです。何を信じていいか、自分の何を信じていいのか、わからなくなったことでしょう。
また、自分が実は犯人ではないかという悪夢を振り払うために、灰根を真犯人と信じ、それゆえに犯罪を憎んだなら、その前提がどっちにしろ崩れてしまったことになります。
御剣は混乱したでしょう。彼の信じてきた世界が足元から瓦解したのです。自分の人生、アイデンティティ、全てが砂上の楼閣だったと気付いたのです。
だから、彼は失踪した。自分を見つめなおし、自分自身をしっかりとつかんで、新しい人生を見つけるために。
そして、なるほどくんがあれほどに怒ったのは、口べたな御剣のことですから、うまく伝わってなかったのかもしれない、とか。それこそ「勝利に執着」しており、今までの自分が崩れて、検事をやっていくのがイヤになったとか誤解されたとか。

…だったら理解できるのですけどね。個人的に。

また、
「勝利に執着する」=「必ず有罪を勝ち取る」…2の御剣
「必ず有罪を勝ち取る」=「犯罪を憎み犯罪者にはしかるべき罰を受けさせるべきだ」…1の御剣
どっちにしろ、「必ず有罪を勝ち取る」というのが考え方の根本にあるという点で、2の御剣と1の御剣は同じ考えであると言えるかもしれません。

うーん、やっぱりどうも、まとまってないなあ。



5 御剣怜侍にとっての冥

空港で相対するまで、御剣は冥の『復讐』の相手が自分であることは知らなかったはずです。一番最初に成歩堂や真宵が思ったように、彼女が日本に来たのは、『狩魔豪』を倒した『成歩堂龍一』に復讐するためだ、と思っていたはず。
御剣自身は、冥にとって自分が大きな存在であるということを、全く知らなかったと思います。会う機会もそんなに多くなかったかもしれませんし。冥の御剣に対するライバル心も、負けず嫌いだから、くらいに思っていたのではないでしょうか。御剣の中で狩魔冥という人物はそんなに大きな割合を占めてはいなかったでしょう。おそらくは。

例の一年の間、冥に連絡を取らなかったのは…単に必要性を感じていなかったというか、冥にとってそれが重大な意味を持っていることをわかっていなかったというか、もしかしたら単に忘れていただけかもしれないような…気もします。

御剣怜侍という人は、おそらくDL6号事件後に転校して以来、ほとんど人とのつきあいがなかったのではないかと思います。親しい友人も恋人もいなかったのではないでしょうか。逆転裁判1では世間話が苦手…というか人と仕事以外の話のできるレベルではなさそうでしたし(汗)、元親友のなるほどくんとでさえ話に困っていたくらいですから。1の最終話、矢張と三人になったところで、フレンドリーな会話をしていましたが、友人とあんな風にくだけた会話をしたのは15年ぶりだったのかもしれないと思うと…かなり不憫ですね、彼。
そして、「いいオトコ」(まあオバちゃんうけするだけかもしれませんが)であるとはいえ、世間話ができない仕事人間で目つきが悪く怖い彼に彼女がいたとはちょっと思えません(酷)。軽いつきあいが出来ると言うタイプではないでしょうし、それに…彼にしてみれば、罪人であるかもしれないという悪夢を抱えて、自分を支えるので精一杯だったのではないでしょうか。多分ど(略)。
しかし、一方で、冥との会話は驚くほどスムーズです。お互いの性格などの欠点に対するあてこすりが主だったりしますが(あいかわらずじゃじゃ馬、とか)どうもあの二人、普通の会話ができているようですね!いや、ですね!って本当はそれ普通のはずなんですけど、御剣に関しては普通じゃないんで…(なんだか「普通」の意味がわからなくなってきた)。それだけ御剣は冥に慣れているということでしょう。そして慣れているということは、親密に話をする間柄だったということ。その親密さが、普通でいう親密というレベルである、かどうかは別としても。
そう考えると、御剣にとって冥は、唯一普通の会話ができる相手だったのではないか、とも思えます。でも、友人にはなり得なかったわけです。それは冥があくまで彼を「打ち倒すべき敵」と見ていたからであり、御剣自身も殻にこもっていたからなのかもしれません。

とはいえ、全くどうでもいい相手であったわけでもないでしょう。実際、御剣がもう一度日本に戻ってくるきっかけとなったのは冥だと思われます。例の空港のシーンで御剣が持っている新聞をよーくみるとそこには冥の写真とおぼしき画像が…あるわけですからね。
そして2の御剣怜侍にとっての冥は、昔の自分の合わせ鏡であったのではないでしょうか。
狩魔豪、つまり過去に囚われたままの冥。有罪判決を求め続け、他人に勝利して優位に立つことでしか自分を表現できない悲しさ。それらは、一年前の自分を彷彿とさせたのでしょう。
だからこそ、御剣は日本まで戻って来た。そして空港まで冥を追いかけて行ったのでしょう。彼女に言わなければならないことがあったから…あの言葉は、先を行くものからの冥への言葉であり、そして、自分自身への言葉であったのかもしれません。
御剣にとっての冥は、過去の自分とダブる似姿であり、そしていみじくも同じ呪縛から解き放たれたと言う点で、同士だったのでしょう。そこから3のパートナー発言へと繋がるのではと思います。


実はですねあのパートナー発言ですけど、萌えどころだとはゼンゼン気付かず、「あんなことあのタイミングで言われたらそりゃー冥ちゃん悔しいよなあだって、最初から自分が御剣に勝てないということも織り込み済みだったってことで自分は結局彼の思い通りになっちゃったということはあらゆる意味で勝てなかったということだもんなあ…絶対冥ちゃんにはイヤミに聞こえたよな」と思って、冥ちゃんに深く同情しつつでも笑いながらゲームを進めていたのは私です。



もっとも、3の冥ちゃんを見ると、ふっきれて余裕が出てきている上に、御剣とはまた別の方向に進んでいるようにも見えます。御剣は「弁護士などと共同して真実を暴く」という方向に考えが行っているみたいですが、冥ちゃんは「真実は検察側が暴くもの」という考えは変わっていないように思えます。
しかし、同じ呪縛からふっきれた…つまり出発点は一緒だったといえ、到達点が一緒である必要は全くないので、これはこれで良いと言えましょう。
また、この2人の考え方の違いは、結局は、父親の違いかもしれません。
今は検事で、狩魔流など習ってしまったとはいえ、元々は父親である御剣信のように「コドクな人の味方になりたい」いうのが原点な御剣と、生まれた時から公権力・検察絶対な狩魔豪に仕込まれて育った冥では、やっぱり考え方の素地が違って当然かもしれませんので。




続く



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